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灼けた砂には芽吹かない

エフラムが変わったドラゴンナイトの女と出会ったのは、オルソンが裏切る直前の事である。

「今からグラド兵が来るので、逃げる準備をした方が良いですよ」

正規のグラド兵が、見るからにルネス兵であるエフラムにそう告げた。

カイルやフォルデは怪訝な表情を浮かべていたと記憶しているし、普通に考えれば彼らのように訝しむのが妥当だ。
だがエフラムには、真っ直ぐにこちらを見る彼女が嘘をついているようには思えなかった。飛竜のように鋭い眼光は、勇ましくはあるが清廉な眼差しをしている。

「君はグラドの兵だろう。何故そんなことを教える」

「…疑わなくていいのですか?」

女は困惑したように言った。それは尤もであったが、エフラムは彼女が嘘をついている風には思えなかったのである。
だから、単純に何故教えるのかと問うたのだ。しかし女はそれが不可解だったらしく、声色に難色が示されていた。

「いい。君を信じる」

「そうですか…」

「さあ、俺は答えたぞ。此方の質問にも返答が欲しい」

「簡単な話です。敵軍であれ、裏切りが気に食わない」

飛び立った彼女の言葉の通り、グラドの兵士は砦に押し掛けた。オルソンが寝返ったのである。
名も知らないグラドの竜騎士。険しい表情に、少し疲れたような瞳。エフラムはなんとなく、彼女を戦場で探すようになっていた。

その竜騎士と再び出会ったのは、タイゼル港で魔物の群と戦っていた時のことだ。

指揮官であるケセルダと口論していたことが印象に強く残っている。以前見た穏やかな表情は一切見えず、激しい怒りと軽蔑の眼差しを向けていた。
彼女を見て、どこか高鳴る自分を感じた。

気高く雄々しい騎士は、傭兵のやり方が気に食わないようだった。
敵国とは言え、民間の街に魔物を巣食わせるやり方に同意出来ないらしい彼女は、不機嫌を隠さない表情で待機をしている。

魔物の群を掻き分け漸く彼女に声を掛ければ、騎士は困った風に言った。

「話は出来ません。戦うと言うのであれば、応じますが」

「君と戦う気は無い。いや、君が俺と戦う気がないのだろう」

「…それは」

「俺を討てと命令されている筈だ。そうしないのは何故だ?」

「また質問ですか」

「そうだ。君と話がしたいんだ」

エフラムと話す騎士はいつも困惑していたが、今まで見た中で一番困った顔をしていた。
彼女は口篭って狼狽えたが、武器を取ることはしなかった。やはり、戦意などは少しもないようだった。

「戦わないのは、将軍の意向です。前回の助言もそう。…尤も、貴方の妹君に討たれてしまったようですが」

「…なんだと?エイリークがグレン殿をか」

「ええ。グレン将軍は、王女エイリークに敗れたと」

「それはおかしい。俺の妹は戦意の無い相手を殺すことなどは無い。あいつは優しいからな。戦場にあっても、愚直なほど情け深い筈だ。
…それに、将軍は思慮深く誠実な人だっただろう。二人が出逢ったところで、殺し合いになどなるだろうか」

彼女は少し考える素振りをする。そして悩んだ末に、飛竜の手綱をたわませた。

「…私も、貴方の妹君が将軍を殺したなどとは信じ難い」

エフラムはその言葉に驚く。敵国の竜騎士である女が、こちらの言葉に耳を傾け、果てには同意をしている。
驚いたのが伝わったのだろう。彼女はこちらを一瞥し、言葉を続けた。

「将軍は、貴方を評価して居られた。武の才…先を読む力…それに、人柄を。
…私はグレン将軍の目に狂いがあったなどとは、到底思えないのです」

「…」

「此度の進軍、皇帝の仰る大義は不明瞭だ。本当に、我らは貴方を討つべきなのでしょうか?」

「それは俺には分からない。君がそうすべきだと言うのなら、槍を手に取ろう。だが、そうではないのなら…無意味な争いはしたくない」

彼女はエフラムを見て、少しだけ表情を軽くした。ドラゴンが嘶いて、高度を上げる。
エフラムが上を見れば、足元に槍が刺さった。刃先を見れば、見事な銀が陽光に煌めく。

「それは礼です。私は危うく、仇を間違える所だった」

そう言って騎士は飛び去っていった。
礼をしなければならないのは此方の方であるのに、やはり不思議なやつだとエフラムは遠くの空を見上げた。

三度目の正直は灼熱の上での再会だった。

どうやら現在は月長石の部下であるらしい。
そうであるにも関わらず、彼女は槍を向けていた────その上官へ。

クーガーが言うには、あの女はヴァルターに殺されたグレン将軍の部下で、彼を慕っていたのだと言う。
そして聡明な彼女は、元から月長石を疑っていたのだろうとも。

放っておけば女は死ぬだろう。
誰が見てもわかる話だ。…エフラムは分かっている。妹に殆どの部下を預け、少数の兵しか持たず行軍してきた自分は、何よりも先にエイリークと合流すべきだ。迎撃などはすべきでは無い。

だがそれを選択した時、彼女は死ぬ。
そう考えた時。エフラムの足は真っ直ぐに向かっていた。槍を持ち、復讐に燃える女へと。

ナマエが不思議な王子様と出会ったのは、グラド王城内にルネス兵が訪問した日である。

つい先日ルネス王都を陥落させたグラドに、ルネス国の第一王子が謁見に来たらしい。
直接手を下したでは無いにせよ、御子息であるリオン様にお会いしたいと言っているという話を耳にした時は、正直気が狂っているのでは無いかと思った。

第一、その時のナマエの仕事と言えば、ルネス兵を一人足りとも外に出すなというものだった。
王子は殺してでも連れて来いと皇帝は言う。そういう流れになることを想像しなかったのかルネスの王子様は…というのが率直な感想である。

しかし彼は人望に厚いようで、ナマエに追撃命令を下した隊長は渋い顔をしていらした。

「エフラム王子はグラドに攻め入り、民を虐殺したと報告を受けているが…そのような人物ではなかった」

「…では、どのような?」

「高潔で、実直な青年だった。…正直、何かの間違いではないかと疑っている。ナマエ、皇帝の命は絶対だ。だが…」

悩ましげに空を見るグレン隊長は、忠誠心に厚く優しいお方だ。貧しい生まれでありながら、そのお心は豊かで、慈悲深い。
ナマエはグレンの迷いを肯定する。信頼し、命を預ける上官がそう仰るのならば、部下はそれに従うのみであった。

「将軍の判断に、私は絶対の信頼を置いております。貴方がそう仰るならば、我々はエフラム王子を追わず、眺めるだけです」

「…すまない。迷惑を掛ける」

デュッセル将軍も浮かない表情をしていらしたことを思い出す。エフラム王子は、武人に愛される気質があるのだろうか。

「しかし、よろしいのですか?我々の軍が参戦せずとも、裏切り者の犬めが彼らを罠に嵌める手筈となっておりますが」

「仕方の無いことだろう。我々は関与をしない。…敵国なのだから、当然のことだ」

将軍はそう言うが、納得はしていない様子であった。だからナマエは、命令違反だとは思いながら…立場上手助けをすることの出来ない隊長に代わって、少しだけ情けをかけたくなったのである。
加えて言えば、ナマエは裏切りが嫌いであった。例え此方へ付こうとも、卑しい兵など…死んでしまえと思っている。

次に王子様と出会ったのは、タイゼル港でルネス軍を待ち伏せしていた時だ。

戦の直前にグレン将軍がエイリーク王女に敗れたと皇帝陛下から知らされ、ナマエは月長石の配下に回された。
新しく帝国六将に配属された人間はどいつもこいつもどうしようもない人間ばかり。民間の街に魔物を呼ぶわ徴兵した新兵をクズ呼ばわりするわ、隙があれば後ろから始末してやりたいところだった。

ナマエは心の何処かで、ルネスの勝利を望んでいるような気がした。
今まで散々破滅的思想を咎められてきたが、ナマエを案じてくれる人はもう居ないのだ。

もはや王への忠誠などは無く、殺すべき仇を殺して自分も死ぬ。それだけを望んでいた。
だが、それでもこの国が壊れるのは見たくない。ナマエは王ではなく、国に槍を捧げているのだから。

だから、将軍が敵対するのに難色を示したルネスの王子ならば、敵国の騎士の話を信じたこの王子なら、グラドを正常に戻してくれるかも、と。
今となっては分からないが、ルネスの王子を手助けしたのはそういうことだったのかも知れない。

そうして迎えたのがジャハナ砂漠での決戦である。
ケセルダやあの忌々しいヴァルターにとっては、出世や欲望のための一戦。ナマエにとっては、仇を殺すための絶好の機会だった。

しかし、ナマエの目論見は露呈していたのだろうか。
ヴァルターはナマエを遠くに配置し、戦に紛れて討ち取るには無理のある立ち位置にした。

それも構わない。ナマエは元より、死ぬ気だった。
多少の傷を負っても、槍さえ振るえればそれで良かった。だから戦が始まってすぐに、ナマエは本陣へと竜を飛ばす。ヴァルターを殺すために。

しかし結果はどうだろう。
ナマエは押されていた。ヴァルターは非道の外道とは言え、実力で称号を賜った竜騎士であった。腕が衰えたとは言え、嘗ての栄華はまだ残っていたのだ。

「ナマエ…!いいぞ、その目…希望を持って私に挑んだと言うのに、結局なにも成せず…死ぬのだな?」

「…」

「つれないな。貴様の上官もそうだったぞ?…だが、死の間際は愉快なものだった。つまらん瞳に、後悔を浮かべていたなァ」

「ヴァルター!貴様…!」

「伝令などという小間使などで、本国へ帰っていなければ…貴様もグレンと共に死ねていたのにな?」

このままでは負けてしまう。将軍の仇を取れず、無様に弄ばれて命を終える。
だが、ナマエはそれが許せなかった。相打ちになってでも殺す。誇りや矜持などはなく、それはナマエの心の為の復讐だ。

ナマエは迫る槍を肩で受け、掴んで引き寄せた。
ヴァルターは驚いた様に目を開き、空いている手で剣を取った。────当然、槍からは手を離して。

「地獄で詫びろ」

肩に刺さった槍を無視して、自身が持つ槍を思い切り突き刺す。
ヴァルターは剣でナマエを斬り殺そうとするが、ナマエは無視して槍を深く突き刺した。

そして力無く飛竜から落ちる将軍を見ながら、ナマエもまた落ちて行く。

ナマエは相棒の背中から転げ落ちて無様にも砂漠に投げ出される所の筈だった。
それを敵兵であるエフラム王子は難無く受け止めると、砂漠にナマエを下して、冒頭に戻る。

降ろされた後も背中に回された腕は緩むことなく、しっかりと抱きすくめられて身動きが取れない。
堪らずに、これは一体どういう了見ですかと問いただす。

「俺は君が欲しいと思った」

真っ直ぐな目で言い放つので、ナマエはあまりの気恥ずかしさに顔を背けてしまった。からんと転げた槍の音で、漸く平静を取り戻すと、目の前にある鎧を必死で前に押す。

「困ります。私は一介のグラド兵で、貴方はルネス軍の大将でしょう。それに、今やグラド兵でも無い。上官を謀った裏切り者ですよ」

やっとのことでそう言った。しかし王子様は言う。

「そんなことは俺の知ったことでは無い」

大層傲慢なことを仰るので、流石に泣きそうになる。何がどうして、自分などをこの王子様は欲しがっているのだろう。
最早、兵士としては使い物にならない。騎士としてもダメだ。作戦を無視して、上官を落としに行くようなのは。

然し乍ら、熱に浮かされたナマエの脳髄は控えめに首を振ることしか出来なくて、どうしようもなく歯痒い。

「…貴方は私にどうしろと言うのです。復讐に燃え、威信は地に落ち、みっともなく抱き抱えられたこの私に」

「俺の元で一生支えて欲しいと考えている」

「なんですかそれ、求婚のつもりですか?…冗談ですよね?」

「そう取ってくれて構わない。言っただろう、俺は君が欲しい」

軽口をどれだけ叩いても、エフラム王子の意思は変わらないらしい。絶対にナマエを引き抜くつもりの様子だし、そのまま娶りたいとまで仰られるのだから、最高にタチが悪い。

王子様に見初められるのはこの上無い幸福で、町娘達の夢物語なのだろうけど、些か場所が場所だ。
ムードも雰囲気もあったものではないのだが…御構い無しに飾り気の無い口説き文句をぶつけてくるので、何が何だか分からなくなる。

やっとの事で次の言葉を口にした。これで断れるだろうとと思いながら。

「エフラム王子は私の名前さえ知らないでしょう」

ナマエは止血された腕を抑え、彼に言う。流石に反論できまいとたかを括ったが、そうではないらしい。

「そうだな。だが、これから知っていけば問題無いだろう」

至極爽やかに流されたので、結局ナマエが根負けするのは時間の問題だったのである。

「なんで私なのか」

同郷出身で元上司、元部下、現対等な仲間であるナマエが酒を不味そうに煽った。

ルネスの酒が苦手なら飲まなければいいだろうと口に出さないのはクーガーの優しさだが、同時に彼女を付け上がられる要因でもある。

兄であるグレンの副官であったこの女はクーガーとの面識も深く、暇があれば定期的に手合わせをしていたほどの友好関係だ。
時折グレンを見る優しげな眼差しは、彼女の厚い忠誠が単なる上司部下だからという理由で構成されているものでは無いことを物語っていたが、まあ今その話は関係無い。

ただ、先日両者が寝返る前に出会った時は「最期までグラドの竜騎士として戦い続けないと将軍に顔向け出来ない」「エイリーク王女には地獄の底で詫びて頂こう」と語っていた筈なのだが…ナマエもクーガーもあっさり此方側に居るわけである。

フレリアの王女に絆されたクーガーも大概だが、ナマエに至ってはルネスの王子に公開処刑のような形で絆されたらしく、軍に加入して暫くは好奇の眼差しが集中していた。
今はこの場に居ないエフラム様は大層彼女にご執心のようで、行軍の際などは常に自分の横に配置している。
少しだけ可哀想ではあるが、お互い生きて再会出来ただけで十分だ。

「自国の兵士ならともかく、敵国の兵士を口説くってどういうことなんだ」

「そうだな」

「それに、ヴァルターと派手にやり過ぎて騎士としても兵士としても終わっている」

「その通りだ。腕も信頼もないな」

「手心!」

「旧知の仲だろうと贔屓する気は無い」

「……エフラム王子の周りには優秀な兵士も美しい姫も揃ってるじゃん。どうして私なんかに声を掛けたんだか」

「エフラム王子に遊ばれているのか?」

「それは無いけど」

想像していた返答と違う答えが返ってきたことに、驚きを滲ませてクーガーは顔を上げる。
相変わらず彼女は腑抜けた顔をしていたが、その目だけは何処か遠くを追っているように見えた。

「王子は誠実で硬派で真面目だよ。戦でさえ騙し討ちを取らずに真っ向から勝利する。勿論戦術的な才能もあるんだろうけれど、王子が負けない一番の理由は真っ直ぐさ故の信頼だろうね。
だから余計に、裏切り者を引き抜いた理由がねえ」

苦笑するこの女は、昔から人を見る目だけは一級品で、おまけに身内だろうが贔屓せずに公平に判断すると来ている。
彼女はクーガーに手心と言うが、彼女だってクーガーを批評するならば手心など加えないだろう。

エフラム王子と最初に相見えた時も、その器を見抜いたであろうことは想像に難くない。
そんな彼女だからこそ王子も手元に置いておきたがるのだろう、と酒気の帯びた頭で緩く思考する。

兄もきっと彼女のそういうところを買って副官に指名したのだろうし、彼女もグレンの器を見抜いて忠誠を誓ったのだろう。
存外兄と彼女はお似合いだったような気がする。

皇帝陛下の乱心が無ければいずれ結ばれ、クーガーと義理の姉弟になっていた未来もあったのだと考えると、行き場の無い遣る瀬無さに苛まれた。

「別に私は忠誠心溢れてるわけじゃないしさあ…ターナ王女みたく慈愛の心があるわけでもラーチェル王女みたくカリスマ性があるわけでも無いのに…」

「そうだな。お前は兄貴に正義が無いと分かれば直ぐに切り捨てていただろうし、お前が助けるのはいつだって真人間だけだった」

「…もうちょっとさあ…キミは優しい言い方出来ないの…グレン将軍なら、もっとこう…」

「残念だが、俺は兄貴の様に甘やかすことはしない主義だ」

「くっ…!将軍…あなたの弟君はご立派だ…!」

言葉に詰まった彼女は再び酒に手を掛け、思い切り煽った。
そして直後に勢い良くむせたので、流石に背中をさすってやると、小さく礼を言う。

暫くぐだぐだと酒を飲んでいると、不意に彼女の体が宙に浮いた。
振り返ってみれば、大層不機嫌そうなルネス王子がナマエの首根っこを掴んでいる様子である。普段から無愛想な表情をしているが、いつにも増して眉間にシワが寄っているように見受けられた。

「悪いが、借りて行くぞ。返す気は無い」

エフラム王子はそう高らかに宣言すると、足早に酒場を抜けて行く。
遠くなる二人の背中を見て、意外と王子は妬くタイプなのかとか、いつからナマエを探していたのだろうかとか、くだらないことが脳裏を掠めていったが、

「なるほど。別に、戦略的な引き抜きでは無かったのか」

お熱いことだ、とクーガーは思った。

いつになく強く引っ張られる右腕を見ながら、呆然とエフラム王子の後ろを付いて回る。
いつもの何故だか余裕を感じる真顔では無く、横から覗き見る表情は硬い。自分は何かしてしまっただろうかとナマエは酒漬けの頭を捻ったが、どうしたって原因が見当たらない。

「あ、あのう、エフラム王子。わたし、何かご機嫌を損ねるようなことをしましたでしょうか?」

「そうだな。まず、俺の事は他人行儀に王子と呼ぶのに、クーガーは呼び捨てなのが気に食わない。それに、酒盛りをするのであれば一声掛けて欲しかった」

「王子はグラドの成人規定を満たしておりません。酒盛りになど…」

要するに、自分が知らないところで誰かと仲良くしてるのが気に食わない、と。

エフラム王子は意外と幼いところがあるのだな、と見当違いなことを思考する。だが、一国の王子様を呼び捨てにする一般兵など無礼も甚だしいだろう。
こいつは一体何を言っているんだと恐れ多くも思ったが、子供のように拗ねる王子に正論を吐くなど少々大人気なさすぎるように思い、仕方なく口を噤む。

「…エフラム王子」

「エフラムでいい」

「……エフラム様」

「なんだ」

「お言葉ですが、貴方はどうして私などをお側に置きたがるのですか?私より良い方が大勢居られるでしょう」

ずっと突っかかっていた質問を投げかけると、エフラム王子は「なんだ、そんなことを気にしていたのか」と溜息を吐いた。呆れたような表情は、大層麗しい。

「君の言う良い方とやらよりも、君のことが好きだから口説いているんだ。周りが何と思っているかは知らないが、俺はナマエが一番魅力的だと思っているし、好いた女性を側に置いておきたいのは誰だってそうだろう」

そんな熱烈なアプローチを、赤面一つせずに言い切ってしまうのだから、ナマエはもう何も言えなくなる。

やっとのことで絞り出した声は情けなくも震えており、みっともなかった。
それを見たエフラム様は大層満足そうに笑うものだから、やっぱり少し子供っぽい方だと拗ねる他無くなるのである。