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陰謀に踊る

※血迷った学パロの上に季節ネタとかいう…FEって何!?みたいな話です。

 

机の上に乱雑に置かれた、否、詰まれたそれらと、それらの貰い主を交互に見て、ナマエは微妙な表情を浮かべる。

大量のチョコレートの山は椅子に腰掛ける男子生徒によって少しずつ崩されていき、その横の誰かの机には包装紙のゴミの山が少しずつ形成されていた。
恐らくは大量に受け取ってしまったが、自宅に持ち帰るには鞄の容量が足りなかったとか、部活前のエネルギー補給だとか、その程度の理由でひたすらに胃に押し込んでいるのだろう。

その食いっぷりは清々しいが、適当に破かれた包装紙と一緒に捨て置かれた手紙の断片のような物を視界に捉えて頭が痛くなってくる。

ナマエも女の子なので、この朴念仁にひっでえ〜!と思うわけだ。思わず深く溜息を吐く。

対する少年といえば、まだあどけない顔をこちらに向けて、青く丸い瞳を更に丸くさせた。

「君は本当に考え無しというか雑というか無関心が過ぎるというか…良く言えば腰を据えてるとも言うんだろうけど…」

「なんだ」

「もうちょっと人のことを考えてあげたらって話」

「…欲しいのか?」

「そういうことじゃない」

差し出された可愛らしいパッケージを遠慮しますと押し返すと、相変わらず何考えてるんだか分からない青の瞳がナマエを見た。

世間はお菓子会社の陰謀に踊らされまくっている二月の初め、俗に言うバレンタインというものである。
目の前の椅子に座るアイクは、大量に詰まれたチョコレートの箱を適当に引っ掴むと包装紙をびりびりに引裂きながら惜しげも躊躇いも無くぽいぽいと口にチョコレートを運んでいる。

これでは真剣に考えてきた女の子があまりにも報われないが、大半はどうせこいつの顔目当てなので問題はない。

このアイクという少年は、少年らしくも整った容姿をしているが中身は向こう見ずで粗雑でガサツで細かい気配り等は全く期待出来ないような人間なのだ。
見る目が無かったと潔く諦めて欲しい。…いや、見る目はある。アイクは良いやつだし、時代と場所さえ違えば、とんでもなくデカいことを成したに違いないとナマエは思っていた。

「アンタはくれないのか?」

「何を?」

「チョコレート。今日はそういう日なんだろ」

「へえ。バレンタインなんて知らないのかと思ってた」

「それは今朝ミストにも言われた。俺はなんだと思われているんだ」

「朴念仁。他者の好意と善意の区別が付かず、全部ひとつにまとめて胃に入れる残酷なヤツ。
あとこれとかこんなに可愛いのに、誰がくれたのかちゃんと覚えてるの!?」

ナマエは破かれた包装紙を手に取って、アイクに見せる。顔を見れば分かった。絶対覚えていない。
突然キレてきたナマエをめんどくさそうに見たアイクは、手に取ったチョコレートをちゃんと見るポーズをする。

「…包装紙を破かずに中身は食えないだろ」

「それはそうだけど。これ、どう見ても本命じゃん。勇気出してくれた子に対して、顔も分かんないのはどうかと思いますけど」

「そういうことは直接言えば良い。俺はアンタの言う通り、朴念仁なんだろうからな」

拗ねたような物言いである。ナマエはちょっと言いすぎたかもしれない。
しかし、それは案外杞憂だったらしい。アイクはナマエに向き直って、手を出した。

「強欲か!」

ナマエはその手を叩いて、引っ込めさせる。どんだけ食いてえんだよコイツは…と白い目を向ければ、悪びれもせずに次のチョコレートを口に含んでいる。

しかしチョコレートを食っているくせに、アイクは真っ直ぐに此方を見据えていた。打ち合いをする時のような、狙い定めるような、目的が有る者の鋭い視線である。
机の端から零れ落ちそうな包装紙をたたむ作業に勤しんでいたナマエは少し驚いて、彼の言葉を待つ。

「アンタは誰にやったんだ?」

「…えっと、ミストちゃんと、ワユさんと、イレースさんは意図的に避けて、エリンシアさんと、」

「わかった、もういい。女以外は?」

「担任の漆黒先生」

「…そうか」

少しだけ不機嫌そうにそっぽを向いたことが物珍しいが、そういえばゼルギウス先生とアイクは仲があまり良く無かったなと合点する。

なにも名前が出るだけで露骨に不機嫌にならなくたっていいのに、とナマエは思った。思ったけど、余計なことを言うと碌な目に合わないことは知っていたので潔く閉口した。
なんだか間が空いてしまって困ってしまう。だからか、余計なことを喋ってしまった。

「リュシオンはアレルギー多くて食べれないし、シノンはムカつくからあげてない」

野郎共にはくれてやってないと言えば、大して興味も無さそうに「そうか」と返ってきた。
そりゃそうだ。誰が一友人のチョコレート配布事情なんかに興味が湧くだろう。

これがエリンシアさんとかワユさんとかならアイクの興味もあるのかもしれないが、お生憎様女子力皆無のナマエさんには関係の無い話だった。

「で、俺にはくれないのか」

先程逸れた話が振り出しに戻ってくる。案外粘り強いアイクは、ばりばりと咀嚼する口を止めないまま空いた方の手を差し出した。

これだけあるのにまだ食う気なのか!
男子高校生の底無しの胃袋に感嘆を漏らすが、残念なことに板チョコは女子に配った分で終了しているのである。
因みに、ゼルギウス先生が既製品以外は少し怖いとボヤいてたのを知っているがための板チョコなのである。限りなく関係の無い余談なのだが。

「ごめん、アイク。可愛い後輩のためにチョコレートをあげたいのは山々なんだけど、手持ちが無くて」

冗談めかして飴でいいかと聞けば、それでいいと返って来たので意外だった。
飴なんか腹に溜まらないのに。驚いた顔が出てしまっていたのか、飴玉を受け取ったアイクは少しだけ口角を上げた。

「知らない奴らから貰えるチョコレートより、アンタがくれる飴玉の方が嬉しいよ」

そうやって思わせ振りに笑いかけてくるのは反則じゃ無いだろうか。

火照る頬を隠すようにそっぽを向けば不思議そうに自分の名を呼ぶ声が聞こえたので、この天然たらしがと内心悪態を吐いたのである。